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神戸地方裁判所 昭和32年(ワ)874号 判決

原告 平野政雄 峯山克己

被告 国

訴訟代理人 細井淳久 島津弘一 大橋嶺夫 中井宗敏

主文

被告平野政雄は原告に対し、金四〇五万九八三四円及びうち金三五三万〇三〇一円に対する昭和三〇年二月四日以降、うち金五二万九五三三円に対する同年八月二二日以降、各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告峯山克己に対する本件請求を棄却する。

訴訟費用は、原告と被告平野政雄との間においては、原告に生じた費用の二分の一を被告平野政雄の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告峯山克己との間においては全部原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(昭和三二年(ワ)第八七四号事件。以下第八七四号事件という。)

被告平野政雄は原告に対し、金三五三万〇三〇一円及びこれに対する昭和三〇年二月四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(昭和三三年回第六〇八号事件。以下第六〇八号事件という。)

被告らは原告に対し、各自、金五二万九五三三円及びこれに対する昭和三〇年八月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(両事件に共通)

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告平野政雄)

原告の請求を棄却する。

(被告峯山克己)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告平野政雄は、検察事務官として昭和二二年九月三〇日から昭和三一年三月一六日まで神戸地方検察庁に勤務し、その間昭和二四年九月頃から昭和三〇年一一月二一日まで、証拠品係及び同係長として、証拠品の受入並びにその後領置物取扱主任官に送付するまでの間の保管及び処分の職務に従事していた。

(第八七四号事件の請求原因)

2  被告平野政雄は、昭和二七年七月三一日頃神戸地方検察庁証拠品係室において、捜査機関が押収し同被告が職務上神戸税関倉庫に委託庁外保管していた没収品、すなわち、金基泰こと金太俊外二名に対する関税法違反被告事件について、昭和二七年三月二二日没収の判決が確定した電気銅六〇九一キログラム、ニツケル棒二四三・五キログラム、古真鋳一四四二キログラム、水銀一八七キログラム、薬よう四一〇・七キログラム、以上の価格合計金二八七万二一五四円相当のものをほしいままに井上勝信外一名に売却し、同人らに善意取得させて原告の所有権を失わせた。

3  湊友幸は、昭和二六年二月二七日、同人に対する塩専売法違反被疑事件に関し押収された塩の所有権を、自らはこれを失うとともに国庫に帰属させる意思で、神戸地方検察庁に対して「所有権放棄書」と題する書面を差し入れたところ、同検察庁は原告の機関として右物件の所有権を原告が取得する旨同人に意思表示をしたので、同日原告はその所有権を取得した。

同検察庁は、その後右物件を換価処分に付し、その換価代金三八万四九一三円を同庁会計課において保管していた。

ところが、被告平野政雄は、これを取得できる権利がないのに、松本静枝と共謀の上、同検察庁検事湯川和夫に対して右金員は湊友幸の依頼により全額同人の債権者である松本静枝に交付すべきものであるかの如く虚構の事実を告げ、これを松本静枝に還付すべき旨の昭和二八年八月一五日付検察官処分命令の発付を受け、同年一二月二六日同検察庁会計課室において、同検察庁歳入歳出外現金出納官吏梶豊二郎に対し右命令を提示し、同人らを欺罔して政府預金小切手一通額面金三八万四九一三円の交付を受け、これを換金費消して原告に同額の損害を与えた。

4  同被告は、昭和三〇年二月四日頃神戸税関で、捜査機関が押収し同税関長から税関処分主任津山久市を通じ神戸地方検察庁検事正宛に送致した没収品、すなわち、

(イ) 鄭仁天に対する関税法違反被告事件について、昭和二八年四月一九日没収の判決が確定した口紅四八〇〇本、その価格金二八万八〇〇〇円相当のもの、

(ロ) 黄金財に対する関税法違反被告事件について、昭和二八年一〇月一一日没収の判決が確定した別紙一覧表一(1)記載の物件、その価格金二三万二〇〇〇円相当のもの

(ハ) 李漢理外一名に対する関税法違反被告事件について、昭和二七年一一月一二日没収の判決が確定した同一覧表二(一)記載の物件、その価格金二一八万八一八一円相当のものを職務上受領しながら、これを正規の手続により同検察庁に受入れないで直ちにほしいままに吾妻すしこと谷岡勉方に持出し隠置し、他に譲渡処分などして所在を不明にし、原告の所有権を事実上喪失きせてその価格合計額相当の損害を与えた。

もつともその後原告は物件の回収に努めた結果、右(イ)の口紅のうち四五一三本、その価格金二七万〇七八〇円、(ロ)の物件のうち同一覧表一(二)[記載の物件、その価格金二二万六七一〇円、右(ハ)の物件のうち同一覧表二(二)の記載の物件、その価格金一九三万五六五七円を回収することができた。よつて、その実害は金二七万三二三四円に止まつている。

5  したがつて、原告は同被告に対し、前記の損害額合計金三五三万〇三〇一円及びこれに対する最終不法行為の日である昭和三〇年二月四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(第六〇八号事件の請求原因)

6  神戸地方裁判所は、辻岡武重らに対する関税法違反被告事件について、大蔵事務官の押収にかかる証拠品(男子用腕巻時計二三〇二個、婦人用腕時計三七六一個、婦人用腕巻時計バンド三一八一本)を没収する旨の判決を言渡し、昭和三〇年二月八日全被告人との関係で右判決は確定した。

ところで、右押収物は押収の頃海水をかぶりそのままでは損傷するおそれがあつたので、神戸税関長は関税法(明治三二年三月一四日法律第六一号、以下旧関税法という。)第九〇条第三項により、右判決の言渡前の昭和二八年七月二七日及び同月三一日の二回にわたり公売し、同月三〇日右公売代金一〇〇三万〇八四五円、同年八月一〇日右代金一二〇万円、以上合計金一二一三万〇八四五円をそれぞれ神戸地方法務局に供託していたので、前記判決の確定により右換価代金及びその供託利息は国庫に帰属するに至つた。

その後、同税関長は神戸地方検察庁から右代金の送付を依頼され、昭和三〇年六月二八日同法務局に前記供託物の取戻及び供託金利息払渡請求をし、供託物金一〇〇三万〇八四五円及びその利息金四四万一三三三円四四銭と供託物金二一〇万円及びその利息金八万八二〇〇円の払渡を受け、同地方検察庁に送付した。

同地方検察庁は、右元金合計金一二一三万〇八四五円及び利息金合計金五二万九五三三円四四銭を一括して保管金として日本銀行神戸支店にある同地方検察庁歳入歳出外現金出納官吏の口座に納入した。

7  被告平野政雄は、右供託金の利息金五二万九五三三円について、これを亡辻岡武重の相続人辻岡とりゑに還付すべきものと錯誤した検察官からその旨の命令を受けたのを利用してこれを騙取しようと企てた。

そして、昭和三〇年八月一七日頃神戸地方検察庁証拠品係室において、辻岡とりゑから余分に印鑑証明書一枚を提出させると同時に同女の印鑑を借り受け、かねて用意しておいた委任状用紙の作成者欄下部に冒捺しておき、同月二二日知人の被告峯山克己及びその義弟の峯山岩夫の両名に依頼して、まず同人らをして右委任状用紙に所要の事項を記入させて右辻岡とりゑが証拠金の受取方を香西清美に委任する旨の委任状を偽造し、つぎに同検察庁会計課室において同課職員日井卓郎に対し、右峯山岩夫をして同人が香西清美でありかつ真正に成立した書類を提出するものであるかのように前記各委任状を他の関係書類とともに提出行使させた。

その結果、同課員は右辻岡とりゑの代理人香西清美が金員受領のため出頭したものと誤信し、その場で換価代金還付の趣旨で同庁歳入歳出外現金出納官吏井上伊佐男振出の日本銀行神戸支店宛金額五二万九五三三円の小切手一通を峯山岩夫に交付したので、被告平野政雄は翌二三日これを現金化し、よつて原告に対し同額の損害を与えた。

8  被告峯山克己は、タクシー会社の取締役のかたわら、本多会の幹部で峰山組の組長をしていた者であつて、昭和二三年一二月頃物資配給統制法規に違反した嫌疑で神戸地方検察庁において取調べを受けた当時から被告平野政雄と知合い、懇意な仲となつていた。

被告峯山克己は、昭和三〇年八月二二日、前記7のとおり被告平野政雄から供託利息金の受領方を依頼されたが、(イ)それまでに既に被告平野政雄がその職務上の地位を利用して不正に証拠金品を領得している事実を熟知していたこと、(ロ)昭和三〇年二月初旬頃被告平野政雄の依頼により前記4記載の証拠晶を賍物であることを知りながら運搬したことがあること、(ハ)被告平野政雄から、前記依頼の理由、趣旨についての事情説明や被告峯山克己の問合せに対し「第三者である香西清美の印鑑証明書を利用する方が好都合である。」といつた指示等からみて、被告平野政雄が果たして正当な受領権限を有しているか否かにつき疑問を感じなければならない状況にあつたことなどに照らし、真実は被告平野政雄が本件供託利息金の正当な受領権限を有さず、したがつて同被告の依頼に応じれば違法に国の所有権を侵害し国に損害を与える結果となることを知ることができ、そのうえは右結果の発生を未然に防止することができた筈であつた。

ところが、被告峯山克己は、被告平野政雄と長年親密な間柄にあり不正なことでも依頼されれば断り切れない義理合いにあつたため、右の点について思慮をめぐらさなかつた過失により、被告平野政雄の依頼に応じて前記7記載の不法行為に加担し、よつて、原告に対し前同額の損害を与えた。

9  したがつて、原告は共同不法行為者である被告ら各自に対し、それぞれ右損害金五二万九五三三円及びこれに対する右不法行為の日である昭和三〇年八月二二日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告平野政雄の本案前の主張

原告は、本件請求を所有権に基づくものと主張するが、原告は本件物件の所有権を有しないから、本件請求の却下を求める。

三  請求原因に対する認否

1  (被告平野政雄)請求原因1のうち、被告平野政雄が昭和二二年五月から昭和三一年二月一〇日まで検察事務官として神戸地方検察庁に勤務したことは認めるが、その余の点は否認する。

(被告峯山克己)請求原因1は、全部認める。

(第八七四号事件についての被告平野政雄の認否)

2  請求原因2の事実は否認する。原告は、被告平野政雄が押収品を職務上委託庁外保管していたと主張するが、関税法違反被疑事件の押収物件は、刑事訴訟法に基づいて検察官に送致され、その保管責任は検察官にあるものである。又、請求原因2において同4におけると同様に、没収の判決の確定により原告の所有に属したと主張されている本件物件は、関税法及び刑事訴訟法により押収領置されたものであるが、押収領置があつても、所有権は第三者に属し原告には属さない。又、刑事事件の判決が確定しただけでは原告は没収物の所有権を取得せず、右取得のためには刑事訴訟法第四七一条以下の裁判の執行に関する規定に定められた手続をしなければならないのに、原告はこれは経ていない。

3  請求原因3のうち、湊友幸が所有権放棄書を作成した事実は認めるが、その趣旨及びその余の事実は否認する。

右書面が作成されたのは、同人に対する被疑事件の捜査が中止された頃であるが、同人が右書面を作成した趣旨は、当該事件の捜査が終了するか、又は押収物件が没収(没取)されなかつたために還付される場合には、還付を受ける者を松本静枝とすることには異議がないと言うにあつて、原告主張のような趣旨ではない。

4  請求原因4のうち、被告平野政雄が原告主張の物件の一部を神戸税関から受理したことは認めるが、その余は否認する。被告平野政雄が神戸税関から受理した物品は、原告が回収したと主張する物品だけである。

5  請求原因5の主張は争う。

(第六〇八号事件についての認否)

6  (被告両名)請求原因6と7は否認する。

(被告平野政雄)刑事事件の判決が確定したからと言つて当然それだけで押収物の所有権が原告に帰属するものではないことは、先に2で述べたとおりである。

7  (被告峯山克己)請求原因8のうち、被告峯山克己に過失があるとの点は否認する。

なお、請求原因8の被告峯山克己の過失による不法行為に基づく請求は、当初主張された同被告の故意による不法行為に基づく請求を変更したものであるが、右の請求の変更は請求の基礎が同一でないから許されない。

8  (被告両名)請求原因9の主張は争う。

四  被告峯山克己の抗弁

1  仮に、当初原告が主張した被告峯山克己の故意による不法行為に基づく請求を前記一8のとおりの過失による不法行為に基づく請求に変更することが許されるとしても、不法行為に因る損害賠償請求権は故意と過失とによつて別個の請求権とされるべきものであるところ、原告は昭和四八年八月三日に至つて始めて同被告の過失による不法行為の主張をしたから、その前に右不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消滅している。

2  仮に被告峯山克己において不法行為責任を負担すべきものとしても、被告平野政雄の不法行為は原告がその果たすべき監督義務を怠つた結果であるから、その責任は原告も負担すべきものであり、少なくとも賠償額の算定に当り斟酌されるべき過失がある。

五  抗弁に対する認否

被告峯山克己の抗弁2は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  被告平野政雄の本案前の抗弁は、要するに、本件訴訟の適法性ないし訴訟要件とは関係のない本件請求は理由がないとの本案についての主張に帰するから、本案前の主張としては採用できない。

二  被告平野政雄が検察事務官として原告主張の日以降神戸地方検察庁に勤務したことは当事者間に争いがなく、そして、原告主張の期間証拠品係又は同係長として、証拠品の受入並びにその後領置物取扱主任官に送付するまでの間の保管及び処分の職務に従事していたことは、原告と被告峯山克己との間では争いがなく、原告と平野政雄との間では〈証拠省略〉によつてこれを認めることができる。

三  請求原因2の事実(被告平野政雄に対する第八七四号事件)について

被告平野政雄との間では〈証拠省略〉によれば、請求原因2記載の事実が認められるから、被告平野政雄は、故意により違法に原告の権利を侵害し、合計金二八七万二一五四円相当の損害を与えたものである。

ところで同被告は、押収物につき没収の判決が確定したとしてもそれのみでは原告の所有に属することにはならないと主張するが、動産であつてその物権変動の効力要件又は対抗要件としては占有の移転のみが必要であるものが押収され国の機関の手中にあるときには、検察官の命令による執行をまたず、没収の判決の確定と同時に右動産の所有権は国庫に帰属するに至るものと解するのを相当とするから、前記認定の没収品の所有権が国庫に帰属したものと言うには何ら妨げはない。

四  請求原因3の事実(被告平野政雄に対する第八七四号事件)について

同被告との間では〈証拠省略〉によれば、湊友幸の所有権放棄書の差入れは押収塩の所有権を国庫に帰属させる意思のもとになされたとの点を除き、請求原因3記載の事実が認められる。

なお、右記載証拠によつても、湊友幸の所有権放棄書の差入れが押収塩の所有権を国庫に帰属させる意思表示であると認めることはできないし、更に、被告平野政雄は、湊友幸が押収塩の所有権を放棄する意思表示をしたとの原告の主張をも否認する。なるほど、〈証拠省略〉によれば、湊友幸は右認定のとおり所有権放棄書を差入れた際、神戸地方検察庁検察官に対し、押収された塩の換価代金を松本静枝に還付されたい旨供述し、又、右塩についてはいずれ押収が解かれるものと信じていたことが認められ、これらの事実からすれば同被告のこの点に関する主張は理由があるようにも見える。しかし、一方、前記証拠によれば、湊友幸は右検察官に対して右のとおり信じていることを隠していたし、前記の供述も右塩の換価代金が万一還付されることがあるならばそのようにされたいとの単なる希望を供述したものに過ぎず、右の供述とともに提出された所有権放棄書には差出人は還付を求めないから然るべく処分されたい旨記載されていることが認められる。そして、右認定の事実に基づき所有権放棄書の提出に際して湊友幸がなした意思表示をいわゆる意思表示の解釈における客観主義の立場にたつて解釈すれば、結局所有権に関する意思表示が盛られていると解される所有権放棄書の標題及び記載内容からして、湊友幸は押収塩の所有権を放棄する旨の意思を表示したものと解するのを相当とする。よつて、右押収権は無主物となつたと言うべきである。

そして、前記の証拠によれば、右押収塩は、塩専売法(明治三八年一月一日法律第一一号)第一条、第五条、第二五条又は塩専売法(昭和二四年五月二八日法律第一一二号)第二条、第四二条第一項、第四七条第一項第三号、第五一条第一項の規定により、国が専売権を有する反面、何人も所有及び所持を禁止され、刑事判決において必要的没収の対象となるため、原告はその換価処分前に無主物先占によりその所有権を取得したことが認められる。

そうだとすれば、同被告は故意により違法に原告の権利を侵害し、金三八万四九一三円相当の損害を与えたものと言うべきである。

五  請求原因4の事実(被告平野政雄に対する第八七四号事件)について

同被告との間では〈証拠省略〉によれば、請求原因4記載のとおり、同被告は故意により原告の権利を違法に侵害し損害を与えたが、原告は被害物件の一部を回収することができ、結局原告の受けた損害は合計金二七万三二三四円相当に止まつた事実が認められる。

そして、右認定の押収物の所有権が検察官の命令による執行をまつまでもなく没収の判決の確定により当然に国庫に帰属するに至つたものと解すべきことは、先に三において述べたと同様である。

六  そうすると、被告平野政雄は原告に対し、(1)請求原因2記載の損害金二八七万二一五四円、(2)請求原因3記載の損害金三八万四九一三円、(3)請求原因4記載の損害金小計金二七万三二三四円、以上合計金三五三万〇三〇一円及びこれに対する最終の不法行為の日である昭和三〇年二月四日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

七  請求原因6ないし8の事実(被告らに対する第六〇八号事件)について

1  〈証拠省略〉によれぼ、請求原因6、7記載の事実が認められるから、被告平野政雄は故意により原告の権利を違法に侵害し、金五二万九五三三円相当の損害を与えたものである。

なお、先に三において述べたとおり、右認定の押収物の所有権は検察官の命令による執行をまつまでもなく没収の判決の確定により当然に国庫に帰属するに至ると解すべきであるから、右押収物に代るべきものである換価代金もまた、同様に押収物の没収の判決の確定により国庫に帰属するに至ると解すべきである。また、旧関税法第九〇条の趣旨に鑑み、没収の判決の確定により原告に帰属した公売代金に対する利息のうち右判決が確定した昭和三〇年二月八日の前日までに生じた分は右判決確定と同時に、右判決確定日以降に発生した分は発生と同時に、それぞれ原告に帰属するに至つたものと解される。

2  そうすると、被告平野政雄は原告に対し、右損害金五二万九五三三円及びこれに対する右不法行為の日である昭和三〇年八月二二日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

3  原告は、被告平野政雄の右不法行為につき被告峯山克己も共同不法行為者となる旨主張する。

〈証拠省略〉によれば、被告峯山克己は、神戸市兵庫区北逆瀬川町所在の兵庫タクシー株式会社取締役として運輸業を営むかたわら、本多会の幹部及び峰山組の組長をしていた者であつて、昭和二三年一二月頃神戸地方検察庁において物資配給統制法規違反の嫌疑で取調べを受けた当時から被告平野政雄と知合い、懇意な間柄となつていたこと、被告峯山克己は、昭和三〇年八月二二日頃後記のとおり被告平野政雄から供託利息金の受領に関して依頼を受けるまでに、既に被告平野政雄がその職務上の地位を利用して不正に証拠金品を領得処分した事実を知つており、同年二月四日被告平野政雄の依頼により賍物であることを知りながら請求原因4記載のとおり別紙一覧表一、二記載の物件を運搬したことがあること、同年八月二二日頃、被告峯山克己は被告平野政雄から「六甲にいる同被告の叔母の近所の心安くしている者に証拠金約五〇万円が還付されることになり、その者が病気中なので同被告が代理受領を任されたが、業務上立場が悪いので誰か代りに受領して貰えないか。」と頼まれてこれを承諾したこと、被告平野政雄は被告峯山克己からの問合せに対し第三者である香西清美の印鑑証明書を利用した方が好都合である旨答えたことが認められる。

原告は、これらの事実から被告平野政雄が本件供託利息金の正当な受領権限を有しないことを被告峯山克己が知りうべきであつたと主張する。しかしながら、右認定に用いた証拠及び前記1に挙示した証拠によれば、前記1に認定した場合を除き、被告平野政雄はその不正行為に被告峯山克己を関係させた場合には、被告峯山克己に利益を与えるか或いはたやすく不正を看破されるような言動しかしていないことが認められるのに反し、前記1に認定した不正行為にあつては同被告に利益を分与したことを認めるに足る証拠はない。又、先に認定のとおり、被告平野政雄は被告峯山克己に依頼するに至つた事情と理由につき一応通常人が納得できる説明をしており、右説明からすれば香西清美の印鑑証明書の利用が好都合であることも一応通常人の理解できるところと解される。そうだとすれば、被告峯山克己が右説明にもかかわらず被告平野政雄の不法行為を予見すべきであつたとするには更に特段の事情を必要とすべきところ、先に認定した諸事実をもってしても右の特段の事情があると解することができず、他に右の特段の事情を認めるに足る証拠もない。したがつて、被告峯山克己において原告主張のような予見可能性があつたものとはたやすく言うことができない。

してみると、原告の被告峯山克己に対する本件請求はその余の点につき判断するまでもなく失当である。

八  よつて、被告平野政雄に対し先に述べた義務の履行を求める原告の本件請求はいずれも正当として認容し、被告峯山克己に対する原告の本件請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下郡山信夫 野田殷稔 笹村将文)

一覧表〈省略〉

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